日本の道路を走るライダーのヘルメットを脱いだ姿を見ると、白髪の混じったベテラン世代が多いと感じることはないでしょうか。かつて若者の熱狂的なカルチャーであったオートバイは、長い年月を経て、今や大人の落ち着いた趣味としての地位を確立しました。実際に業界団体が定期的に行っている市場動向調査の数字を追っていくと、ライダーの平均年齢は年々上昇を続け、ついに50代半ばに達しています。数十年前は20代が中心だったことを考えると、驚くべき変化です。しかし、この数字だけを見てバイク業界は高齢化の一途をたどっていると結論づけるのは早計かもしれません。最近の街中やSNSのタイムラインを見渡すと、明らかに以前とは違う新しい風が吹き始めていることに気づかされます。

平均年齢を押し上げているのは第1次ブーム世代です

なぜここまで平均年齢が上がったのか、その最大の要因は日本の人口構成とバイクブームの歴史にあります。現在、ライダー人口のボリュームゾーンを形成しているのは、1980年代の空前のバイクブームを経験した世代です。当時、熱狂の中で青春時代を過ごした彼らが、子育てを終えて金銭的にも時間的にも余裕ができ、再びバイクに戻ってくるリターンライダー現象が長く続いています。彼らは大型バイクなどの高価格帯の車両を購入する購買力があり、長くバイクライフを楽しんでいるため、統計上の平均年齢を大きく押し上げる要因となっています。

また、バイクの高性能化と高価格化も無関係ではありません。排ガス規制への対応や電子制御の搭載により、バイクの車体価格は昔に比べて上昇しました。特に趣味性の高い大型バイクは、若年層にはなかなか手が届きにくい価格帯になっており、結果として経済力のある中高年層がオーナーの中心にならざるを得ないという側面もあります。体力のある元気なシニア層が増えたこともあり、60代や70代でも現役でツーリングを楽しむ人が珍しくなくなったことも、平均年齢が高い水準で推移している理由の一つです。

数字の裏に隠れた若年層の増加トレンド

平均年齢という数字は、全体の真ん中を示すものですが、実態を正確に映し出しているとは限りません。実はここ数年、10代や20代の新規免許取得者数が増加しており、若者のバイク回帰と呼ばれる現象が起きています。平均年齢が50代だからといって、50代の人ばかりが乗っているわけではなく、実際には若者層と中高年層という二つの大きな山が存在する形になりつつあるのです。

この若者のバイクブームを牽引しているのは、ソーシャルメディアと新しい価値観です。InstagramやYouTubeなどで、キャンプツーリングの様子や、レトロでかわいいバイクとおしゃれなファッションを組み合わせた投稿が拡散され、バイクが古臭い乗り物から映えるアイテムへとイメージが転換されました。また、コロナ禍において公共交通機関を使わない移動手段として注目されたことも、デジタルネイティブ世代がバイクに触れるきっかけとなりました。彼らはスペックやスピードを競うことよりも、バイクのある生活や体験そのものを重視する傾向にあり、250ccクラスや125ccクラスなどの扱いやすい排気量のバイクを選んで楽しんでいます。これら若年層の参入は、平均値を急激に下げるほどの規模にはまだ至っていませんが、現場の肌感覚としては確実に若返りの兆候を感じさせるものです。

二極化するバイクライフとこれからの数字

これからのバイク市場の数字を読み解く上でキーワードになるのは、二極化です。高価で高性能な大型バイクを所有し、長距離ツーリングや所有感を楽しむベテラン世代と、維持費が安くファッション性の高い中小型バイクを日常の延長として楽しむ若者世代。この異なる二つの層が、それぞれの楽しみ方でバイク市場を支える構造がより鮮明になっていくでしょう。

平均年齢という一つの数字だけを追いかけていると、全体が高齢化して元気がなくなっているように見えるかもしれません。しかし、細部を見れば、高校生や大学生が初めてのバイク選びに目を輝かせている姿もあれば、定年後の夫婦がタンデムで日本一周を目指す姿もあります。世代を超えた共通の趣味として、バイクは稀有な存在になりつつあります。若者が増えているという事実は、将来の平均年齢の数字にもいずれ変化をもたらすはずです。数字の推移は、単なる老化ではなく、バイクという文化が世代を超えて広く定着し、成熟した証と言えるのではないでしょうか。

参照元:一般社団法人 日本自動車工業会(JAMA)「2023年度 二輪車市場動向調査」